暦
お題
創造する100題
001:冷ややかな
002:棄てられない
003:広がる
書いたものから消していきます。
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× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 わたしは、わたしの一族の中では何の芸も持っていない輩なのだよ。 三郎は、私にそう話したことがある。鉢屋の輩は皆、妙な能力を持っているのだと。 そうでなければ、私は変装などする必要がないもの。 言って、私のそばで横になっていた三郎は、自嘲のため息を漏らした。 私は三郎の、僕と同じ、髪を撫でた。 遠くの方で、不如帰が鳴いている。 鉢屋って、「へんそう」が得意なのだろう? すごい、ねえ! ねぇねぇ、山田先生に化けてよ。 うわぁ、似ている! けれど、何で伝子さんなんだよ。 不気味だな、 今度は厚木先生がいいなあ。 声も一緒だね。 すごいなあ。 じゃあね、 じゃあ、 鉢屋って厭味なヤツだよね。 少しばかり成績がいいからって。 でもなあ、あの鉢屋衆だろう。 何されるかたまったまんじゃあねぇなあ。 いいの、いいの。あんなヤツには構わないほうが得策さ。 あんなヤツと同じ場所にいたくないなあ。 そんじゃあ、辞めるか。辞めてしまおう、こんな学校。 あんな友達みたいな顔をして、裏で何をやっているか分からないヤツと友達になんかなりたくねえ。 お前は人なのか。 何時も変装ばかりしているのも、おかしいよね。 よっぽど不細工なんだろうか。 聞いた話によると、いつでも化けられるように頬骨を折り、眉毛も剃って、ありゃあ人の顔じゃあないって話だぜ。 おっかねえ、おっかねえ。 PR 一日中、立ち仕事をしたあとは、踵が痛む。湯に使っていると、踵にじんじんと鈍い痛みがはしる。きり丸は、どくんどくんと芯の臓が鳴るたびに走る痛みを堪えた。学校が休みであることをいいことに、バイトを一日中、数日間入れた結果が、これだった。骨の中が痛いというのか、骨自体が痛いというのか。アルバイトをしすぎだ、と伊助も乱太郎も言う。だが、金は天下の廻りものである。稼げるときに稼いでおかなきゃ、怪我だ病だ焼き討ちだと何か予想すらしないことに遭い、にっちもさっちもなくなって、「金が無い」と嘆いても何にも始まらない。米も大事だが、これからは金さえあればどうにかなる。宋銭ほど、俺にとって大事なものは無い。俺が働いた分だけ、金は増えていく。「金は俺を裏切らない」きり丸は、にがにがしく独り呟いた。
三年ほど里には帰っていない。家に帰りたくなかったからだ。家に帰れば、畑仕事だのまき割りだのを手伝いをさせられるのは目に見えている。これらの作業は面倒だし、季の息子の私など、しばらく家に帰らなくても誰も心を痛めまいと思うと、帰り支度をして数日かけて帰宅するのが面倒なことに思えた。学校にずっといるからということがわかると、同級生をはじめ、先輩に加え後輩までもいろいろと、普段は頼み難いことでもひそかに頼ってきた。そのお陰で色々なことが出来る器用さを身につけたのは最大の偶然だ。そんなことばかりしていたからだろうか、心優しい友人が今年こそは里に帰れと促されて帰宅した時、母親の姿が判らなかった。三年前より皺が深くなった顔、土で汚れた爪、痩せて曲がった背中。母親の記憶が、わたしの中で錆び付いていた。
‐‐‐ 留三郎 090227 私は何時も見下ろしている。そのことに気づいたのは何時からだったろう。春一番が来る日には、子ども等は私がつけた花が散るのを嘆き、秋には葉が散ることを愛(お)しんだ。いつのまにか、子ども等は背丈が伸び何時からか此処には来なくなった。静かに時を喰らう私は、何時も彼らの声を聴き、風に身を任せている。 この木は未だ立っていたか、という声を聴いてはっと見遣れば、そこには小さいころの面影がかけらもない輩が立っていた。 今年も花を点けてくれよ、と言い残し彼は去った。再度、春は巡ってきたのだ。
乱太郎は微かな水音が聞こえた心持ちがして、目を覚ました。耳を澄ましたが、何も聞こえない。しんべェは隣で涎を垂らして熟睡している。その隣の布団はもぬけの殻だ。月灯が格子から差し込み、部屋を照らしている。乱太郎は胸騒ぎを覚えて、身体を起こした。春、とはいえ夜分は冷える。乱太郎は羽織りと手ぬぐいを手に部屋から出た。月が煌々と縁側を照らしている。
長屋からやや離れた、医務室近くの井戸で、乱太郎は予想通りの人物を認めた。後ろ姿を見ただけで、軟派な男は声をかけるだろう。乱太郎が声をかける前に彼の影は振り返り、か細く乱太郎の名前を呼んだ。 乱太郎はため息をつくと今から医務室を開けるからと、きり丸に言った。きり丸の顔には胡粉でも隠しきれない疲労の後が見て取れる。 毎晩何をしていたんだと問い詰める前に休息を与えなければ。湯を沸かして、身体を拭けと。そう言わなければ、彼の麗人は神経の絃が切れてしまいそうだ。 ‐‐‐ 五年 は組 乱太郎 きり丸
これは偶発的な道なのだろうか。
君に声をかけたくて、僕が君に近寄ろうとするのは。 僕らは隣を歩いているだけが許された存在というだけで、君の名を呼んではならないのだろうか。 人と話すのは総じて面倒だ。用件さえ伝えて差し障りがないのであれば、それでいい。媚び諛う大人は山ほど見てきた。交わることは、浅ましい。機嫌をとるくらいなら、いっそ関わらない方がいい。だから僕は僕の周りに壁を築く。誰にも僕の領分を侵させやしない。 昨日も一昨日も挨拶をしたが、全く話しをしてくれない。僕は嫌われてしまったか。だが僕は彼と話しがしたい。 何故僕に構う。何故僕を誘う。何故僕の名前を呼ぶ。僕は揺れる。真摯な目に騙されるな。かりそめの学友など必要ない。 ___ 一年 小平太と長次 20090215 |